トランプ米大統領が新型コロナウイルスに感染したことが10月2日明らかになった。症状にかかわらず、一定期間の隔離を余儀なくされよう。
世界の政治指導者では英国のジョンソン首相、ブラジルのボルソナロ大統領らが感染しながら執務を続けた。
あわてることはあるまい。トランプ氏が一刻も早く回復することを祈りたい。
ただし、米大統領の不在への備えは必要である。
トランプ氏は世界最強の米軍の最高司令官でもある。いかなる状況下でも、米政府と米軍の機能を低下させてはならない。
共和党の現職であるトランプ氏と民主党のバイデン前副大統領との争いとなった大統領選の投票が1カ月後に迫っている。
大統領選のテレビ討論会は9月29日に1回目が行われ、残る2回が今月15、22日に予定されている。計画通りの実施は難しくとも、何らかの形で両候補が意見を戦わせる場を設け、有権者が吟味できる機会を確保してほしい。
「大統領感染」の危機に際し、いかに自由・公正な選挙を実現して国民が納得できる形で、次の指導者を選べるか。民主主義の力量が問われている。
ポンペオ米国務長官は、米中対立を民主主義と共産主義の対決と位置づけ、民主主義国による新同盟の結成を呼びかけている。
だからこそ、この大統領選を通じて民主主義を貫き、それが機能することを示す意義は大きい。不測の事態が生じたとしても、それに対応する制度と力強さが米国にはあるはずだ。
新型コロナウイルス対策に関する演説で、中国の習近平国家主席は「党中央の強い指導下で感染を有効に押さえ込んだ」と自賛し、一党独裁の優位性を強調した。
中国共産党の方針がすべて正しく、情報隠蔽(いんぺい)をしてもその事実を伏せ、批判や反対意見が退けられる。それで新型コロナウイルスに打ち勝ったといえるのか。
大統領選のテレビ討論会ではトランプ、バイデン両氏による中傷や妨害が過ぎたとはいえ、トランプ政権の感染対策について曲がりなりにも論戦があった。
トランプ氏はマスク不要論から転じた過去もある。自身の感染対策には反省するところもあろう。危機に強い大統領と米国であることを示してほしい。
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2020年10月3日付産経新聞【主張】を転載しています